目を見開いたまま、

 固まる私。


 頬に添えられた、両手。

 おでこに触れる、前髪。

 伏せられた、長いまつげ。


 夏の日差しより熱い、

 流川の体温。


 目の前の全ての景色が。

 流川に変わる。


 青い空も。

 水しぶきも。

 行き交う人たちも。

 周囲にあふれる、音さえも。

 全部。





 一瞬の出来事。


 なのに私の唇は。


 ううん、全身の神経が。


 フル作動で流川を感じてる。



 びっくりして。

 でも。

 初めてちゃんと触れた流川の唇に。

 もっと集中したくって。

 もっと、流川を感じたくて。


 開きっぱなしの目を閉じようと、試みる。


 なのに。


「よく騒がなかったな」


 言葉と一緒に、

 数秒で離れてしまった体温は。

 なにも言い返せない私の目をのぞきこみ。

 
 動いた指が。


「合格」


 私の髪をすくって。

 
「でもお前の唇、荒れてるぞ」


 唇で、止まる。