帰り道。

 週末の歩道は、まだお昼前だけれど混雑気味で。


 背の高い流川が少し前を歩いてくれてるおかげで、ちょっとした通り道が出来上がっていて。

 私は、人を交わしながら、なんとか上手く歩けている。

 
 なかなか便利な男だ。

 
 時々、チラリと後ろを振り返る流川は。

 斜め後ろから私がついてきていることを確認すると、また前をむいて…みたいな。

 そんなことを繰り返していて。

 私はそのたびに流川を見上げて、首をかしげる。

 
 …ああ、気づかってくれてるのか。


 そう気づくまで、5分くらいかかってしまった。


 
 それでも、駅前に近づくにつれ、人の波は大きさと速度を増してきて。

 油断すると、逆方向に押し戻されそうになってしまう。


「ととと…」


 思わずつかみそうになる、流川の腕。


 イケナイイケナイ。

 そんなことをしたら、またからかわれるし。

 伸ばした手を引っ込めて、ひたすら流川のあとに続く。

 

 夏の太陽はすでに高めの位置に昇っていて。

 ビルとアスファルトと自動車なんかに容赦なく降りそそぎ。

 
 流川の黒髪も光に濡れていて、その向こうに飛行機雲が伸びている。

 青い空に、スー…と一本の糸みたいに。

 どこかにむかって、真っ直ぐに。

 
 誰かさんみたいだ。



 前を行く流川の背中はシャンとして、人の波にもブレなくて。

 
 この背中に、昨日、乗ったんだよな…

 
 そう思うと少し恥ずかしくなり。

 でも、たのもしく。

 なぜか、好ましく。

 こうしてついて行けば間違いないような、そんな気にさえなってきて。


 不思議。