「あのね。カエルがいるんだけど」

「あー、カエル」

「もしかして要くんが持ってきてくれた?」

「うん。大事かな、と思ってさ」

「やっぱり。ありがとう」


 ふう…

 カエルが一人で歩いてきたんじゃなくて良かった…

 麻紀の言うとおり、生きてるなんてことになったら…

 って、そんなわけないけど。


 …ん?

 ということは…


「要くん…どうやってカエル運んできたの?」

「電車で。カエルサイズの袋なんか部屋にないからさ。かなり恥ずかしかった」


 やっぱり…。


「あとで取りに行くから、わざわざ運んでくれなくてもよかったのに」


 カエルを抱えて電車に乗る恥ずかしさ、私もよく知ってますから。


「なんとなくカエルが寂しそうに見えたからさ」

「え? 要くんも?」

「え?」

「あ、なんでも…」


 要くんといい、流川といい、

 カエルの気持ちを代弁するの、上手いな…


「ごめんね、恥ずかしい思いまでさせてわざわざ持ってきてもらっちゃって」

「いや、いいよ。麻紀ちゃんからのプレゼントだしな。唯衣の服も、少しだけ運んでおいたから」

「…ありがとう」

「うん」


 少しの沈黙。

 ちょっぴり、苦しい。


「…唯衣」

「…ん?」

「寂しかったらさ…」

「…ん?」

「いや… なんでもない」

「…うん」


 電話の向こう。

 要くんがホントは何を言いたいのかが、わかる。


 でも。

 今の私たちに必要なのは。

 たぶん…

 この距離。


「残ってるものとか、少しづつ取りにいくね」

「うん」

「じゃ… また学校で」

「ああ。…おやすみ、唯衣」

「うん。…おやすみ」


 ボタンを押すと。

 きゅ…と痛む胸。


 私はカエルを抱きしめて。

 部屋のなかでしばらくうずくまっていた。