「でも…もう番号も消しちゃったし。あんな別れ方しちゃったし」
私も。
麻紀の顔は見ずに、パスタ皿に視線を落とす。
流川とは…
もう終わりって思ってたし。
要くんと、またいつもの生活に戻ろうと思っていたし。
けど。
こんなことになってしまって。
正直なところ、私の心も揺れ動いている。
だけど…
だからって…
『お前に都合のいい男じゃねーんだよ、俺は』
あの日の、流川の言葉が頭に浮かぶ。
「あんたたち、結構お似合いだと思ってたんだけどさ」
「え?」
「あんたと流川直人のからみ、なかなか様になってたけど?」
「からみって」
「あたしもさ、せっかく飲み友達ができたと思ってたのにさ。誰かさんが勝手に縁切っちゃうんだもんなー」
茶化すように。
でも、優しさの滲む麻紀の言葉。
「カエルのこと動かせんのも、流川直人だけなんでしょ?」
…だから、エスパーじゃないんだってば…
「なんとか連絡だけでも取ってみたら?」
「…でも」
「流川、あんたのこと守ろうとしてくれたんだね」
「……」
「短い付き合いなのにさ。夏休みのあいだだけの」
「……」
「イイ男じゃん。あたしが欲しいくらいだわ」
「欲しいって」
「エスパーだし」
「…だから、エスパーじゃないってば」
「ぷっ」
「ふふ」
フォークにからんだパスタ。
同時に持ち上げて。
私たちは、顔を見合わせて笑った。