私は。

 要くんがなにを言いたいのかわからずに、その顔をぼんやり見ていた。


「昨日さ、サナエと会ってるとき、流川も店にいたんだよ」

「え?」

「友達と飲んでたみたいでさ。俺のこと見つけて」

「……」

「合宿に行ってるはずの俺がいて、しかも女連れてて。相当驚いたんだろうな」

「……」


 流川が?

 そこにいたんだ…


「いきなり掴みかかってきてさ。唯衣のこと放っておいて何してんだ、って」

「…え?」

「びびったよ、マジで」


 ふっと笑った要くんは、すっかり冷めてしまったコーヒーを啜った。


「殴られると思ったよ。すごい顔してたからな」

「…それで? …殴られたの?」

「いや、殴られなかった」

「…そう。良かった」


 ケンカなんて、してほしくないし。

 あれ…?

 でも…


「あ…」

「なに?」

「でも流川…ケガして帰ってきたの。口のとこ、切れてて…」

「だろ?」

「え?」

「やばいな、と思った俺も」

「…要くんが…殴ったの?」

「いや、俺じゃない」


 また軽く笑った要くんは。

 何かを思い出すみたいに、やれやれという顔をして。


「サナエなんだよ」

「…へ?」

「サナエが流川を殴ったんだ」

「ウソ…」

「しかも、グラスで」

「ぐ…グラス?」

「うん」


 なに?

 どういうこと?


「この人は悪くないって叫んでさ。俺が殴られる前に、いきなりグラスで流川を殴ったんだよ」

「……」

「底の厚いグラスだったから良かったけど。あ、良かったってことはないけどさ。悪いのは私だからって言ってな」

「…だからあんなにひどく腫れて…」

「店中大騒ぎになって大変だった。女に殴られたから流川も手は出せなかったんだろ」