「アイツ、帰ったって、今日出てったの?」

「え? 流川?」

「うん」

「…うん。要くんが帰ってくる前に。突然」

「そう」

「うん。改装工事が終わったからって」

「ふーん」


 天井をむいて、胸まで布団を下ろした要くんは。

 ぼんやり宙を見ている。


「ちょうど入れ替わりみたいに…」

「…ああ、そうだな」


 入れ替わり。

 自分で言って、少し不思議に思った。


「唯衣」

「…うん?」

「あのさ」

「…ん?」

「いや、また今度でいいや」

「?」


 もう一度私のカラダを抱きしめた要くんは、

「俺、明日ちょっと用事があるから、夜まで出かけてくるな」

「え?…うん」

「あさってから、どっか行こうか」

「…うん」

「どこ行きたい?」

「…どこでも。要くんと一緒だったら、どこでもいい」

「…ん」


 要くんは。

 軽く私のおでこにキスをして。


「おやすみ、唯衣」

「おやすみ」


 目を閉じた。

 しばらく私の髪を撫で続けていた手も、寝息とともに止まって。


 私は。

 要くんの寝顔を隣りで見ながら、その頬に触れて。

 それから…

 胸に残った、流川のキスマークを見つめた。

 
 こんなところに痕を残していくなんて…

 流川の…バカ。


「要くん」


 背中に回した手にチカラを入れて。


「…好き」


 つぶやいて。

 キスマークを隠すように。

 要くんのカラダに抱きついた。