時計の針が11時を指すころ。


 ガチャ…


 玄関を開ける音。


「…流川?」


 抱えていたカエルをソファに座らせて、そっちに向かうと。


「ちょっ…、どうしたの?!」


 玄関先で、うなだれて座り込んでる流川の姿。


「流川? どうしたの?」


 近付いて、肩を揺らす。


「ねぇってば…」



 ………!



 ゆっくり顔を上げた流川の口元に、血が滲んでいて。

 カラダから、お酒のにおいが強く立っていた。


「流川…その顔…」 


 引き締まっているはずの頬が、左側だけ腫れていて。


「…何でもねーよ」


 掃き捨てるように言った流川が立ち上がろうとする。

 けれど、足がふらついていて、グラリと体が傾いた。

 
 私はとっさにそのカラダを支えて。

 流川の腕を肩にかける。


「フラフラじゃん…どうしちゃったの?」

「何でもない」

「何でもないわけないじゃん! 血は出てるし、こんなにフラフラだし!」

「わめくなよ。うるせーな」


 流川がこんなにフラフラなんて…おかしい。

 旅行でも、ここまで酔ったりしなかったのに。

 
 それに、血。

 もしかして、ケンカ?


「とにかく、早くなかに入って」


 引きずるようにして、何とか流川をソファまで運んだ。


 カエルを抱いて、ソファに横になった流川は。

 深く息を吐いてから、こぶしで血のついた口元をぬぐった。

 顔が、痛そうに歪む。

 
 私は冷蔵庫から水を取り出して。

 タオルを濡らして。

 その口元を軽くぬぐってから、ゆっくり水を飲ませた。

 旅館のときのように。


 それでも苦しそうな流川の顔。

 腫れが、ひどい。

 
「冷やしたほうがいいな、これ…」


 冷凍庫に戻って、氷をビニール袋に入れて。

 タオルでくるんでから、流川のところに戻る。


「ひどい顔…こんなに酔って、ホントにどうしちゃったの…」


 ひとりごとのようにつぶやいて、

 流川の頬に触れているときだった――