流川の言葉に、うんうんと頷いた麻紀は。



「大体あんたたち、今ふたりで住んでるわけでしょ? 一緒の部屋だってどうってことないじゃん」


「だっ、でもっ! アパートと旅館の差って、おっきいでしょ?!」


「たいして変わんないって」


「変わるって!」



温泉宿ってことで十分変わりますっ。

 
そして畳の部屋に敷かれるまっさらな布団でしょ?

 
いつもとは…ぜんっぜん、違うって!



「ま、いいからいいから」


「良くないっ」


「そのカエル、ホントは動くんでしょ?」


「はあ?」


 
なにを言ってるんだ、麻紀は。

 
唖然としていると。



「いざとなったらカエルに助けてもらいなって」


 
こしょこしょと耳打ちする麻紀。

 
あんた…まだ流川がエスパーで、カエルは動くと思ってるんだ…



「あの…」


 
私たちのやりとりにおろおろする仲居さん。

 
そんな仲居さんを見ていた流川は。



「じゃ、俺とコイツで。部屋、どっち?」


 
仲居さんにたずねて。



「あ、ああ、お二人はこちらです」


 
突き当たりじゃないほうの部屋を指す仲居さん。



「そ。じゃ」


 
言いながら私の腕をむんずとつかむ流川。



「ぎゃ、ば、ちょ、ちょっと」


 
焦って腕を振る私を。



「じたばたすんな」


 
引きずり込むように部屋に入っていく流川。



「だ、ちょ、まっ、て」


「意味不明だ、その言葉」


「ま、麻紀! 助けてぇ!」


 
叫んでみれば。



「じゃ、唯衣、あとでお風呂でねー」


 
ひらひらと手を振る麻紀は、祐二くんと一緒に、私の視界から消えた。


 
ああああ……

 
ウソでしょ?!