「おかえりなさい」
さっきの若い仲居さんに出迎えられ、鼻の下が伸びている祐二くん。
…の隣りをガードするように立つ流川の身長で、その顔は麻紀の立つ位置からは死角になり。
お、流川、頭いい。
感心して見上げていると、ふふん、と流川は鼻先で笑った。
広々としたロビーは柔らかいオレンジ色の光に包まれていて。
麻紀がチェックインの手続きをしている間、私はきょろきょろと辺りを見回していた。
びっくりしたのはその館内。
廊下という廊下はすべて畳で敷き詰められていて。
スリッパの必要なし。
ゴージャスというよりは、しっとりと落ち着いた純日本風宿という雰囲気が、すごく心地いい。
「えー、なんか良くない?」
「麻紀、あんたがここを選んだのが奇跡だね」
「ど~れ~にしようかな、で選んだだけなんだけどさ。っていうかその前に、懸賞に当たったのが奇跡よ」
「たぶん、普通に来たら、めちゃくちゃ高いんだろうね」
「あたしに感謝してよ。唯衣も祐二も流川直人も」
はいはいはい、三人で相槌を打ちながら歩く廊下。
畳の匂いが気持ちいい。
流川の肩の上で、カエルも気持ち良さそうにびろんと伸びている。
仲居さんに促されてエレベーターに乗って、着いたのは4階。
廊下の突き当たりとその隣りの部屋の前。
「こちらのお部屋と、こちらのお部屋になりますね。お荷物は中に入れておきましたので」
仲居さんはそう言って、私たちの顔を交互に見て。
ちょっと首をかしげてから、少し止まって、
「あの……お客様とお客様、」
麻紀と祐二くんを指し。
「お客様とお客様、で宜しかったでしょうか」
流川と……私を見た。