出発当日。
麻紀と、その彼氏が乗った車が、アパートの前で景気よくクラクションを鳴らした。
「あ、来た来た!」
今日は、麻紀の彼氏の車で宿へむかう。
電車という話もあったけれど、車のほうが何かと便利だろうということでそうなった。
立ち上がった私が、荷物とカエルを抱えると。
「カエルは俺が持ってやる」
流川は私からカエルを取り上げて、自分の肩に乗せた。
「おはよ」
部屋を出て。
流川と二人、窓越しに車の中の二人に声をかけると。
「あなたがエスパー流川直人!!」
「は?」
麻紀の第一声に、固まる流川。
「なんだ、エスパーって?」
流川が私の耳元でつぶやく。
「いや、なんでもない。こういうヤツなの、麻紀は」
私が苦笑していると。
「唯衣、大事にしてくれてるのは分かるけどさ、連れてくの? それ」
麻紀が指差す先。
流川の肩に乗った巨大カエル。
「ああ、これね。うん、連れてく」
「なんで? まさか寂しいとか言って泣くとか? 流川直人が超能力で生き物に変えたとか?」
「いや、それはないから」
流川はまだ渋い顔。
なぜに自分がエスパー呼ばわりされるのか、そんな。
実はカエルを連れていくのには訳があって。
部屋にカエルがやってきて、一週間。
ラッキーなことが目白押しだったのだ。
やってきた翌日。
流川は以前から欲しがっていた数量限定の復刻版Tシャツを手に入れ。
次の日。
私はいくら探しても見つからなかったネックレスが出てきた。
しかもカエルが座っているおしりの下から。
さらに次の日。
このあたりをうろついていた変質者が捕まったのだ。
年齢を聞くと、わりと若い男だったので、もしかしたら、あの時、私を追いかけてきたヤツかもしれない。
その他、小さいことだけど、ラッキーなことが諸々起こって。
流川も私も、ちょっとアホみたいだけど、このカエルに一目置くことになったのだ。