再び持ち上げられた流川の手は。

 
迷いなく私の首筋にそえられて。


 
ドキ…ン…


 
ま、待って…

 
本気…?



「あ…」


 
続きの言葉が出る前に。

 
目の前にせまってくる流川の顔。

 
切れ長の目が伏せられて。

 
私もぎゅっと目を閉じる。




ちゅっ…



 
…と聞こえたのは、

 
左の耳元。


 
唇が、触れたか触れてないのかわからないほどの感覚で。

 
耳のなかに、流川の息が漏れてきた。


 
頬と頬がわずかにくっついて。

 

「俺をからかうと、今度は口にするからな」



そのまま耳元でささやくように言った流川の顔が、ゆっくり離れていく。


首筋から離した手で、私の髪をすくって。

 
耳の後ろにそっとかける。



「似合うじゃん」


 
ちょっぴり口角を上げて笑う流川。



 
私は。

 
神経を集中していた唇じゃないところに降りてきた流川の吐息に。

 
逆に、ドキドキが止まらなくって。


 
「バカっ」って言ってやりたいのに。

 
言葉が出なくって。


 
流川の顔を見つめたまま、しばらく固まっていた。



 
――そんな、ハタチの誕生日。