坊主はクルリと向きを変え、私たちの方を一度見据えた後、ペコリと一礼し、大人達も合わせて頭<コウベ>を垂れた

すると、何故か坊主は他愛もない話をしながらしきりに法依を整え出した

その動作にハッとした母は、
『お父さん!ほら!はら!あれ!あれ渡さんね!』

母は無声で父の肘をつつきながら何やら促していた。
『えっ?何や?あれて?』

訳のわからない父はそれを声に出して応える

母は呆れながら
『ほらっ!アレやんか!アレ!』
あくまで無声と代名詞でやり通す

何度かのやり取りの後、ようやく意味を理解した父は照れ臭そうにヒョコヒョコと坊主の元まで行き小布施を渡した

坊主はその厚さを瞬時に感じとっている様に見えた。

やがて霊柩車が到着し、坊主も帰り仕度をしだした

そそくさとしている時に法依からチラッチラと見え隠れしていたロレックスを私は忘れない