「だから、メルダースに――」

「それが、子供という」

「意味が、わからないよ」

「一人暮らしをすることが、大人への一歩と捉えるのは結構。でも、時として周囲に頼ることも――」

 だが、その先の言葉が続けられることはなかった。

 何故なら、メイドの一人がエイルの部屋に顔を出したのだ。

 普通、誰かがいるか確かめるかたちで扉を叩くものだが、今回はそれがなかった。

 いきなり扉が開き、エイルとイズールは反射的に扉の方向に視線を向けている。

 無論、三人は驚いた。

 二人の姿にメイドは、急いで扉を閉めてしまう。

 だが、それは許されることではない。エイルは扉に近付くと開き、廊下で硬直しているメイドに言葉を掛ける。

 すると、メイドの震えた声音が響いた。

 何度も何度も同じ言葉で謝り、自身が行ってしまった無礼を必死に詫びていく。

 確かに、これは褒められたものではない。
 
 しかし二人は、これくらいのことで激怒する兄弟ではない。

 視線を部屋の中に向け、兄からの反応を待つ。

 イルーズ自身エイルと同等の考えを持っていたのか、気にしていないという意味を込めて頭を振っている。

 寧ろ、これは仕方がなかったと話す。

「僕は行くよ」

「お、おい」

「後は宜しく」

「待て。これを――」

 部屋から出て行こうとするエイルを制すと、イルーズはメルダースの入学証明書を手渡す。

 差し出されたそれにエイルは、特別な反応を示さない。

 無言のままそれを受け取ると、ポケットの中に仕舞う。

 それは乱暴な入れ方であったが、エイルの性格が出ている行動であった。

 いつもと変わらない態度に、イルーズはやれやれと肩を竦める。

 そして周囲に漂う不穏な空気に、メイドは居心地が悪い。

 しかし、何が関係しているのか質問することはできない。所詮、雇われの身。

 不必要な発言はご法度とされているので、両者の顔を交互に眺めながら沈黙を続けている。

「どうした?」

「いえ、特には――」

「微妙な年頃だよ」

「そ、それは?」

「気にしなくていい。で、何用だ?」