その少女(ひと)は、毎晩同じ時間にフロアへ現れた。



観客はただひとりの少年。
少年の熱っぽい眼差しを浴びて、少女は一夜限りの華を咲かせる。



華麗に舞うステップはさながら闇夜に踊る花弁のようで、少年も少女もその言葉なく交わす時間に酔い痴れていた。



今宵も少女は少年のためだけに華麗な舞を届ける。



滑らかに伸ばされ、夏の夜空に映える大輪のように跳ねる四肢…



その全ての輝きに少年は心を奪われた。



目線の先に舞う「華」はいつしか少年の心を埋め尽くすものとなった。



毎晩繰り返される光景は少女の心にも変化をもたらす。



少女は目線の先に座る少年に対し何とも言えぬ情を抱いていた。



この儚い華の舞を熱の籠った、さながら冬の夜に焚かれるかがり火のように見詰める視線に、少女ははっきりと魅せられる。