「えっ?何で?」
雨宮先輩は驚いた表情で私を見ている。
「だ、だって……、雨宮先輩の事を好きな人、たくさんいるから……」
「そんなの関係ないだろ?俺が好きなのは麻美佳ちゃんなんだから」
「でもっ……」
「でも、じゃない!何で周りを気にするの?周りがどう思ってようが大切なのは俺達の気持ちだろ?俺は麻美佳ちゃんとの事、隠したくない」
雨宮先輩の気持ちは嬉しい。
でも、これ以上の理由は話せない。
私は黙って雨宮先輩を見つめるしか出来ない。
そして、少し沈黙が流れる。
先に口を開いたのは……
「そんなに俺と付き合う事、隠したいの?」
隠したわけではない。
私がもっと美人で雨宮先輩と並んでも、誰もが認めるような人なら、堂々と出来るかもしれない。
誰もが認めるような人なら、あの先輩達も何も言って来ないかもしれない。
きっと私だから、あんな事を言われたのだから。
「そういうわけじゃないけど……。でも、雨宮先輩の事好きな人たくさんいるし。私がもしその立場で、先輩に彼女が出来たって知ったら、ショックだろうな、って……」
私は朝の出来事を隠し、必死に訴える。
そんな私を見て
「……わかったよ。麻美佳ちゃんがそうしたいのなら、内緒にしよう」
そう言って、私の頭を撫でる。
だけど、その時の雨宮先輩の表情は、すごく寂しげだった。
雨宮先輩のそんな表情を見るのは嫌だ。
だけど、大好きな雨宮先輩にそんな表情をさせているのは、私。
わかっているけど、私にはその方法しか思い付かない。
それからの私達の付き合い方。
それは、部活が終わった後、みんなが帰った後の部室で数分一緒にいるくらい。
今までみたいに、みんなで一緒に帰る事はあっても、二人きりで一緒に帰る事はない。
夜、電話やメールはしたりしているけど、二人きりで会うのは部活終わりに部室で数分会うだけ。
その時、雨宮先輩は必ず私をぎゅっと抱きしめてくれる。
それは、すごく幸せな時間。
だけど、そんな時間はあっという間に過ぎる。
そんな日々の中、夏休みに入る。
夏休みに入ってからも、もちろん部活の日々。
特に休みがあるわけじゃないから、雨宮先輩とどこかに出掛ける事もなく……
と言っても、“内緒の関係”なのだから、出掛けるなんて出来ないけど。
だから、雨宮先輩と会うのは部活だけだった。
だけど、雨宮先輩の提案で、部活の開始時間より早めに学校へ行き、部活が始まるまでの少しの時間を二人きりで過ごしていた。
いつもより一緒に居られる。
それが、私は嬉しかった。
3年の先輩達も引退をし、夏休みも終わる。
そして、いつもの日々が戻る。
ある日――…
部活も終わり、いつものように片付けをしていた。
ただ、ミーティングをしていたから、今日はいつもより終わる時間が遅くなった。
片付けをしている私の所に、雨宮先輩が近付いてくる。
「今日、いつもより遅いから送るよ」
「えっ?大丈夫ですよ。途中まで多恵と一緒ですから」
“内緒の関係”を言い出してから、雨宮先輩と二人で帰る事はなかった。
多恵には心配を掛けたくなくて、雨宮先輩の事が好きな先輩達に呼び出された事などを言うつもりはなかったのだけど、雨宮先輩に“内緒の関係”を提案した後、全部話した。
だから、いつも多恵と一緒に帰っていた。
「でも、さすがに今日は遅いから送らせて」
「でも……」
あの先輩達に雨宮先輩と一緒に帰る所を見られたら……
最近、部室以外では、二人きりにならないようにしているから、あの先輩達に呼び出される事はない。
平和に過ごせている。
だけど、あの日、呼び出された事を思い出すと怖い。
だから、もし、今日一緒に帰った事がバレたら……
それが怖くて渋っていると
「いつも一緒に居られないんだからさ……。たまには彼氏らしい事させてよ」
そう言いながら、雨宮先輩が私の頬にそっと触れる。
その表情は、あの日のように寂しげで……
「……はい」
そんな雨宮先輩の表情を見たら、「はい」としか返事が出来なかった。
雨宮先輩のそんな表情見たくない。
だけど、雨宮先輩にそんな表情をさせているのは、私のワガママのせい。
わかっているけど……
雨宮先輩と一緒に居られて、あの先輩達に呼び出されないようにする方法。
こうするしかないんだ。
片付けを終え、着替えて多恵と一緒に校舎を出る。
雨宮先輩は「校門で待っている」と言っていた。
雨宮先輩がいるであろう校門に視線を向ける。
そこに居たのは、雨宮先輩と雨宮先輩を囲うようにしている、あの先輩達。
どうしよう……
最近、会わなかったのに、何でこのタイミングで会ってしまうんだろう。
今、校門まで行くと雨宮先輩は私に声を掛ける。
そして、約束通り一緒に帰ろうとするだろう。
今日は雨宮先輩がいるから何も言われないだろうけど……
きっと……
いや、絶対に明日、あの先輩達に呼び出されるだろう。
……怖い。
一気に不安が私を襲う。
そして、無意識に足が止まった。
「まみ、どうした?」
急に止まった私に、多恵は振り返り声を掛ける。
多恵には全部話したけど、どの人かは言っていない。
「あそこに居る……」
「あれ?まみと多恵じゃん」
私が多恵に話そうとすると、後ろから拓真の声が。
振り返ると拓真の隣には、雨宮先輩が好きだったあの先輩もいた。
「こんな所で立ち止まって、何してんだ?」
拓真に雨宮先輩と付き合うようになった事は話していない。
もちろん、あの先輩達に呼び出された事も。
拓真は同じクラス。
だから、前に呼び出されたあの日。
1時間目の授業に出られなかった私は、拓真に聞かれても「体調が悪かった」と誤魔化していた。
瀬戸には、
「拓真にも言わないで」
と、お願いをしていた。
だから、何て答えようか迷っていると
「あっ、あれか……」
私が答えるより先に、拓真は校門の所にいる雨宮先輩達に視線を向ける。
何で拓真が、私が立ち止っている原因に気付いたのか疑問に思っていると
「あの子達、雨宮くんの事、好きだからね……」
拓真の隣にいる先輩が雨宮先輩達の方を見ながら呟く。
拓真もだけど、何でこの先輩も分かったのだろう。
そんな事を考えていると
「えっと……、まみちゃんだっけ?大丈夫?」
先輩は視線を私に移し、声を掛ける。
「えっ?」
いきなり話し掛けられ驚く。
そして、何が大丈夫なのか、何で心配されているのかわからず、答えに困っていると
「私も拓真と付き合う前は、よくいわれのない事を陰口で言われていたからね……」
顔をしかめながら言う。
「何ではるか先輩が?」
拓真は隣にいる先輩、はるか先輩を見る。
「雨宮くん、あまり自分から女の子に声掛けないし、喋らないじゃない?」
そうなんだ、と思いながら私は聞く。
だって、付き合う事になる前から、いつも雨宮先輩が声を掛けてくれていたし、普通に話していたから。
「私は隣の席ってのもあって、結構話していたし、仲良かったのよ。私も雨宮くんも友達としか思っていないけど、あの子達からしたら、私の存在が邪魔だったんじゃない?」
はるか先輩は、あまり気にしていない感じで話す。
その頃、雨宮先輩は、はるか先輩の事を好きだったんだけどな……
その事を思い出していると
「まみちゃん、雨宮くんと付き合っているんでしょ?」
「えっ?どうしてそれを……」