店の中に入ると。





「…………あれ?」





色とりどりの服が並べられた店内には、予想に反して、一人も客がいなかった。




店主らしき男がこちらを見ているので、藤波は訊ねる。






「あの………今、衣被を被った女が一人、来ませんでしたか?」






男は怪しい者でも見るように眉をしかめてから、それでも親切に答えてくれた。






「あぁ、来たけど。


いま出ていったよ」





「…………え?」






藤波は思わず戸口を振り返る。






「なんでか知らんが、男もんの着物を買っていった。


すぐに着替えて、頭巾も買って被って行ったがね」






「…………はぁっ!?」






藤波は目を剥いて、慌てて外へ飛び出した。