白縫山の朝は早い。




女たちは日が昇ると共に起き出し、火を熾して朝飯の支度をしたり、洗濯のために川へと繰り出していく。





男たちは盗みの仕事や狩りの準備のため、刃物の手入れに余念が無い。






朝の喧騒の中を、汀は軽やかに駆けた。




その後ろを、青丹丸が元気良く追ってくる。






汀は長く伸ばしていた髪をばっさりと切り落とし、幾重にも重ねて着ていた色鮮やかな袿(うちき)を脱ぎ捨てて。




今はすっかり庶民と同じ、こざっぱりとした粗末な麻の単(ひとえ)に身を包んでいた。







(ああ、身軽になるって素晴らしい!)






森の中の清々しい空気をめいっぱいに吸い込み、汀は大きく両手を広げて青空を仰いだ。