「すっかり春ねぇ。


桜も、もうじきかしら………」






「………白縫山は、都よりは遅いぞ」






「あら、そうなの。少し寒いものね」






「……………」








やっとのことで目の前の星が消えたので、灯はむくりと起き上がった。




もちろん、汀が逃亡しないよう、首根っこをがしりとつかんだままである。






「…………帰るぞ」




「はぁい」






汀は多少は反省しているようで、素直に灯に従った。





汀の後ろ襟をしっかり掴んだままずるずると引きずるように歩き出した灯は、栗野のほうへと向かって行った。




栗野はやっと興奮がおさまり、今は軽く駆けている状態である。





灯はおもむろに汀を抱き上げると、肩に担ぐようにした。




まるで荷物に対するような、ぞんざいな扱いに汀は目を剥くが、灯は構わずに走り出した。




そして、栗野と速度がそろったところで、汀を担いだまま身軽に跳び上がり、ひらりと栗野の背にまたがった。