「…………お前を野に放つと、ろくなことをしないのは目に見えているからな」






汀がこれ以上勝手なことをしないよう、灯はぎゅっと腕に力をこめた。




どう考えても、汀が一人で栗野をうまくつかまえられるとは思えなかったし、逆に下手をすれば足蹴にされて飛ばされる恐れもあった。






「…………俺の眩暈が治まるまで、ここでじっとしてろ」







灯の低い声を真近に聞きながら、汀は目を丸くして、黙ってされるがままになっている。





本物の馬よりよっぽど言うことを聞かないじゃじゃ馬が、やっと大人しくなったことに、灯は安堵したように吐息を洩らした。






ゆっくりと波うつ灯の胸の上で、汀は視線を巡らせる。





春の野原は、一面、鮮やかな新緑の色だった。




その中にちらほら、白や黄、薄桃色が散っている。






「…………まぁ。


ねぇ、見て、蘇芳丸」






「……………」






腕の中の汀が指差したほうへ、灯は眩む目をゆっくりと向ける。







「お花が咲いてるわ………きれいねぇ」





「…………あぁ」







灯は小さく頷いた。