母はくすりと笑うと、「座ってちょうだいな」と声をかけた。





言われるがままに廂に腰を下ろした汀と灯の前に、母も座り込む。






「私ねぇ、近くにお友達がいなくって、いつも寂しいのよ。


ね、お話相手になってちょうだいな」






小首を傾げて微笑まれて、汀は朗らかに笑い返した。






「………ええ、私で良ければ」





「まぁ、嬉しいわ。


同じ年頃の女の子とゆっくり話せるのなんて、いったいどれくらいぶりかしら」






屈託なく頬に手を当てる母を、汀は優しい眼差しで見つめていた。






それを黙って眺めながら、灯は複雑な思いを抱かざるを得ない。






(………実の母親が、自分のことを忘れているなんて、悲しくないはずがない。


しかも、同じ年頃の娘どうしとして話すなんて………)







はたで見ている灯のほうが切ない気持ちになったが、汀は笑顔を浮かべたまま母の話を聞き、相槌をうったりしている。