母はゆっくりと身を起こし、廂へと出てきた。






「………まぁ、こんな時間にお客さま?


ようこそ、いらっしゃい」





「すみません、お休みになっていたのに………」





「あら、いいのよ。


ちょっとうつらうつらしていただけなの」






母娘の間で交わされる、どこか他人行儀な会話に、灯は目を伏せる。







(………やはり、汀のことが分からないんだな。


自分の実の娘なのにーーー)







御簾から出てきた母は、汀と灯を見て、はっとした。





そして、ふわりと柔らかく微笑む。







「…………あら、あなたたち。


前にも来てくれたわね」






「あ……覚えていてくださったんですか。


嬉しいです………」







汀ははにかんだように口許に手を当てた。