「…………俺のこと、忘れてた?」






傷ついたような顔でそこに立っていたのは、藤波である。






群雲はあははと笑い声を上げて、「そんなはずないだろう!?」と誤魔化したが、もちろん藤波は信じていない。






「なんなんだよ、群雲がついてこいって言うから、嫌々ここまで戻って来たのに!


忘れるとかあり得ない!」







ぶつくさと文句を言う藤波の頭を、黒松がこつんと叩く。






「お頭のことを悪く言うな。


そもそもお前が泉まで行くのを嫌がって、ここで待っていたのがいけないんだよ」





「………だって、泉に行った人は誰も帰って来ないって………」






すると汀が、藤波の頭をなでなでと撫でた。






「それはもう大丈夫よ。


青瑞の姫はやっと幸せを見つけたから、もう誰も泉に引き込まれたりしないわ」






それを聞いて、藤波が目を丸くする。





「…………そう言えば、汀も灯もびしょ濡れだね。


一体なにがあったの?」






「…………聞かないでくれ。


もう思い出したくもない………」







灯はげんなりと肩を落とした。