寝たふりを決め込んだ灯の寝ぐらに、足音がかさりこそりと迫ってくる。






(…………頼むから、早く帰ってくれ)






心の中で祈りながら、灯は固く目を瞑る。






その頬に、不意に冷たく湿ったものが触れた。






「ーーーっ!?」






驚いてがばりと起き上がった灯の目に飛び込んできたのは、黒々と湿って艶めく物体だった。






「…………きゅぅん」





子犬の鼻である。







その鼻と、黒く潤んだつぶらな瞳の向こうに、悪戯っぽく笑う薄藍色の瞳が見えた。






「………うふふ」






案の定、青丹丸(アオニマロ)を抱えて灯を見つめる汀(ミギワ)だった。






灯を驚かせようと、その頬に青丹丸の鼻をくっつけたのである。