『あれはもう、ずいぶん昔のことになってしまったが………。



私は一人の男に恋をした。


その男は、私の従兄にあたる者だった。



幼い頃に初めて出会ってすぐに私たちは恋に落ち、将来は必ずめおとになろう、とかたく誓い合った』







遠くを眺めるような、青瑞の姫の遥かな眼差し。




汀と灯は黙って続きを待った。






『幼い少女時代は幸せだった。



私たちは共に高貴な家の子だったので、思うように会うことも難しかった。


だから文をやりとりするばかりだったが………それでもあの人は、時折私の家に訪ねてきてくれ、双六や貝合などをして楽しく遊んだものだ』






青瑞の姫の幸福な思い出のように、穏やかで温かいそよ風が辺りの樹々を揺らしていた。