灯の耳に届く水音が大きくなるにつれ、その音の中にどこか不穏な気配が混じっていることが分かった。






(…………なんの音だろう。


弓を引き絞ったような、あるいは竹を割くような………)






その気配の正体が分からぬまま、灯は険しい眼差しを周囲に投げた。






「蘇芳丸、どうしたのー?


そんなゆっくりしてたら、置いてっちゃうわよ」






「……………」







いかにも能天気な言葉を汀からかけられ、灯は不機嫌を隠さない無言で応える。




汀は首を傾げ、まぁいっか、とばかりに再び登りはじめた。






「あっ、見て見て蘇芳丸!!


この黄色いお花、とってもきれいねぇ」






「…………藤菜だな」






「へぇ、藤菜というの」






「しばらくすると、白い羽毛のようなものがついた種がつく」






「まぁっ、黄色から白に変わるの!?


そんな花、見たこともないわ………。


蘇芳丸って物知りなのねぇ」







関心したように見上げてくる汀に、灯は溜め息を洩らした。