貴族の姫君とはいえ、都の町外れの田舎で育った汀は、軽やかな身振りで獣道を登って行く。




それでもやはり灯は心配で、五歩ほど後ろで、いつ汀が転がってもいいように待ち構えながら後に続いた。






しばらく登ると、道はさらに細くなってきた。




枝葉を繁らせる樹々に道を妨げられながら、垂れてくる蔦を手で払いながら、汀は黙って足を踏み出す。







(…………ただの好奇心のためにここまで頑張れるとは、見上げた奴だ)






汀の必死な姿が可笑しくなり、灯の口許が笑みの形に歪んだ。




そのとき灯の耳に、こぽこぽという清らかな音が入ってきた。






「…………水の音」





「え?」






灯の低い呟きに気づき、汀が振り返る。




灯は動きを止め、じっと耳を澄ませた。






「…………あっちの方から、湧き水の音がする。


泉があるのかも知れない」






「まぁ、さすが蘇芳丸!!」






汀はぱちぱちと拍手をし、灯が指差した方向へと向かった。