春の風が新緑を揺らす、さわさわという音が、山じゅうに満ちていた。




その中に、聞きなれた声が時折、混じってくる。





灯は小さく唇を歪め、振り返らずに呟いた。







「…………いた。行くぞ」







短く告げると、灯は迷いもなく足を踏み出した。





白鷺が驚いたように目を瞠ったので、汀はにこりと笑いかける。







「この人は、とっても耳がいいのよ。


あと、鼻と目も、ね」






「まぁ………」







白鷺は信じられないといったように、口許に手を当てた。







しばらく樹々の間を進んでいく。




歩きながらも耳を澄ませていた灯が、ぴくりと反応した。





(…………藤波の他にも、誰かいる)