濃藍(こきあい)の帳が張り巡らされた暗い部屋の中に、少女の囁くような声が響く。





「………それで、あの。


私………お仕えしているお殿様の、一人息子の若君のことを、好きになってしまったのです」





「んまぁ」





鼻から上を隠すように巻かれた薄花色の絹の向こうで、目を丸くする気配がした。




切ない恋の涙を浮かべた少女は、苦し気な吐息を洩らして、さらに語る。






「いけないことだと、よく分かっているのです。


それでも、若君の凛としたお顔や、颯爽とした歩き姿を拝見すると、どうしても想いが抑えられなくて………」






涙ながらに語られた言葉に、薄絹の陰の柳眉が顰められる。






「あら、どうしていけないことなの?」





「え………?」






少女は驚いたように顔を上げた。






「だって………雇われの身でありながら、ご主人さまのご令息に好意を寄せるなんて、あまりにも畏れ多いことですし。


それに、いくら恋い慕ったところで、かなうはずもない想いですから」






「んま、かなうはずがないとは、どういうこと?」






「え………ですから、身分があまりにも違いますもの………」