ベンチに座り、華音有は深く息を吐いた。

 安心したのか、疲れが一気に溢れ出たからかと思う。

 女子シングルの場合、フリースケーティングでは一キロを全力疾走するのと同じくらいの体力を要すると言われてる。ショートプログラムはフリースケーティングに比べれば、時間や入れられる要素が少ないから、体力的には楽かもしれないが、疲れるものは疲れる。

 カメラに向かって座った状態でお辞儀。
 立ち上がって、未だに拍手を送り続ける観客に手を振ってお辞儀。
 疲れることが分からないように、無理矢理微笑んでお辞儀する。

「もうそろそろじゃないか。」

 カメラの音声に拾われない程度に基一が声を掛けると、華音有は座った。
 基一は長年の経験から、得点が出るタイミングが分かるらしい。

 いよいよ得点が出る。

 三人はベンチの前の得点モニターをじっと見つめる。

「只今の得点・・・。」

 観客の拍手が鳴り止んだ。華音有とコーチによって、会場を何とも言えない雰囲気にさせる。

「74.42点。」
「わぁーー。」

 観客はわぬ素晴らしい演技の得点に、腰を抜かしてる。技術点40.10点、芸術点34.32点で、現在ダントツでトップ。

 和歌子は華音有に飛びつき、基一は、

『よく頑張った。』

 と言う代わりに背中を軽く叩く。

 華音有本人は、喜んでいるのか、当然だと思っているのか、驚いているのか、何を思っているのかわからない表情。