君がいてくれたこと



家に戻り、すぐシャワーを浴びた。


どれだけこすっても、痛いだけ。


昨日の感触は、消えなかった。




私は、この現実を認めたくなかった。


だから、言葉では表さなかった。


ただ、鏡で自分の姿を見つめていただけ。



仕事の事は、すっかり忘れていた。





何で..?



何が起こったのかさえ、理解しようとできない。


だけど、自分の体を見るたびに、


現実が蘇ってくる。


嫌嫌嫌。




どれだけ叫んでも、後戻りできない。



あの、幸せだった時間は



一瞬で、あとかたもなく消え去った。




どれだけ経ったのかな。



いつの間にか時計を見ると、7時を過ぎていた。



私はこの半日ぐらい、ずっと鏡の前にいたらしい。


体の感覚も、頭もおかしくなったかのように


辺りは真っ暗に見える。





ふと、台所のナイフが鏡越しに、目に入った。


それを見た瞬間、足が、一歩、動きだした。







何かを求めるように



ゆっくり、歩いていく。




そう。


私が求めたものは


死________




* * * * *


私はどれだけ眠ったのだろう。


目を開けたら、見知らぬ天井が目に入る。


温かいぬくもり。


それが、少し幸せだった。


_ああ、私きっと天国にいるんだ。



そんな夢も、一瞬だった。




急に、神経が戻ったかのように、右手首が痛む。


それと同時に、全身を痛みが襲う。



「なに..?」


痛む手首をそっと見る。


そこにあったのは、包帯がたくさん巻かれた、物体だった。



「やッ...」


それと同時に、自分がたくさんの管でつながれていることに、気付いた。



「あ...あッ...」


その瞬間、自分に起きた出来事が


何度もリピートされる。



「違うッ..違うぅぅぅッ...」


癇癪を起した、ただの獣のように、暴れる自分。

体が動かせられないことが、苦しくて。




ただ、涙を流しながらそう叫んだ。




扉が急に開いて、看護師と医者が入ってくる。



「もう大丈夫ですよ。深呼吸してください。」


私をなだめるように、私に言う。





やめてよ。


そんな目で、私を見ないでよ。


遭われるような目で、見ないでよ。





「やめろッ...触るなぁぁッ..」


獣のようになった私は、叫び続ける。




「なんで?何で死なせてくれなかったのッ...」


その声さえ届いてないかのように、


看護師は何か薬を入れていく。


何でそんな淡々としているの。



私の苦しみなんか


この世に必要ないとでも言いたいように。





叫ぶのも馬鹿らしくなってきて



黙る私。



さっきは獣のようだった私が



今は、死人の顔になる。


魂、心がない、


ただの、人形___