君がいてくれたこと



今ふと気付いたこと。



昨日の雅との約束。



ずっと手に持っていたスマホ。


電源を入れてみてみると、数十件の雅からの着信。

「雅...」



電話をしようか迷った。


だけど、やめた。


今は、誰とも話す気にはなれない。



家に戻り、すぐシャワーを浴びた。


どれだけこすっても、痛いだけ。


昨日の感触は、消えなかった。




私は、この現実を認めたくなかった。


だから、言葉では表さなかった。


ただ、鏡で自分の姿を見つめていただけ。



仕事の事は、すっかり忘れていた。





何で..?



何が起こったのかさえ、理解しようとできない。


だけど、自分の体を見るたびに、


現実が蘇ってくる。


嫌嫌嫌。




どれだけ叫んでも、後戻りできない。



あの、幸せだった時間は



一瞬で、あとかたもなく消え去った。




どれだけ経ったのかな。



いつの間にか時計を見ると、7時を過ぎていた。



私はこの半日ぐらい、ずっと鏡の前にいたらしい。


体の感覚も、頭もおかしくなったかのように


辺りは真っ暗に見える。





ふと、台所のナイフが鏡越しに、目に入った。


それを見た瞬間、足が、一歩、動きだした。







何かを求めるように



ゆっくり、歩いていく。




そう。


私が求めたものは


死________




* * * * *


私はどれだけ眠ったのだろう。


目を開けたら、見知らぬ天井が目に入る。


温かいぬくもり。


それが、少し幸せだった。


_ああ、私きっと天国にいるんだ。



そんな夢も、一瞬だった。




急に、神経が戻ったかのように、右手首が痛む。


それと同時に、全身を痛みが襲う。



「なに..?」


痛む手首をそっと見る。


そこにあったのは、包帯がたくさん巻かれた、物体だった。



「やッ...」


それと同時に、自分がたくさんの管でつながれていることに、気付いた。



「あ...あッ...」


その瞬間、自分に起きた出来事が


何度もリピートされる。



「違うッ..違うぅぅぅッ...」


癇癪を起した、ただの獣のように、暴れる自分。

体が動かせられないことが、苦しくて。




ただ、涙を流しながらそう叫んだ。




扉が急に開いて、看護師と医者が入ってくる。



「もう大丈夫ですよ。深呼吸してください。」


私をなだめるように、私に言う。





やめてよ。


そんな目で、私を見ないでよ。


遭われるような目で、見ないでよ。





「やめろッ...触るなぁぁッ..」


獣のようになった私は、叫び続ける。




「なんで?何で死なせてくれなかったのッ...」


その声さえ届いてないかのように、


看護師は何か薬を入れていく。


何でそんな淡々としているの。



私の苦しみなんか


この世に必要ないとでも言いたいように。