そんなこと、本当になるわけないけど。
私だけでも、実現させたいんだ。
雅が今、私を憎んでるかもしれないけど。
私だけでも、
心の中だけでもいい。
雅を今からでも、大切にしたい。
。
「ちょ、優奈!?何泣いてんの!!」
「うわーん。理沙ー。」
理沙の前で、雅のことで泣くなんて。
どれだけ、自分勝手なのかな。
自分から雅を手放して。
傷つけて。
でも、もう後戻りできないのなら、
これからを、大事にしようかな。
。
初出勤当日
「いやーッ寝坊したぁぁ!」
7時には、行かなきゃいけないのに、
現在時刻 6時半。
30分で、準備しろというのか?
ま、それは自己責任だし...。
「急ごうッ!」
。
30分の間で、
着替えて、メイクもすました。
「やべっ、時間!!」
初出勤。楽しみ。
不安だけど、頑張ろう。
。
この時は、期待しかなかった。
これから始まる、新たな日々。
その先におこる、幸せに隠された闇なんて
このころは、知る由もなかった。
。
「今日から、お世話になります。桐谷優奈です。」
ミーティングも終わって、基本的な事も、先輩スタッフに習って
あとは、オープン待つのみ!
緊張するー!
。
オープンは、9時から。
現在時刻、8時45分。
後15分かー。
「遅れましたっ!」
急に、店内に響いた声。
「あ、遅いよー。雅ちゃん!」
ドクンッ
聞き覚えのある名前が
一瞬、怖かった。
。
ゆっくり後ろを振り返る。
でも、そこにいたのは、あの『雅』じゃなかった。
「あ、新人ちゃん?かわいー!あ、私、横山雅!」
とても、かわいい声。
暗めの茶髪で、メイクも清楚系。
目もぱっちりしていて、美人。
高鳴っていた胸が、落ち着く。
。
「雅!遅刻しといてよく言うよな!」
「あ、ばれちゃった?でもしょうがないじゃん!電車止まってたんだし―」
この会話ぶりからすると、この雅さんは
取っても人気なんだな、と思った。
誰からも好かれる、雅さん。
一瞬、昔の雅が頭をよぎる。
。