君がいてくれたこと




さらに、私は支度を始めた。


いつもより気合を入れた強めのメイク。



服も、ちょっとシンプルに、かっこよく。




髪はストレートで下して。



高めのハイヒール。





....少しでも、弱い自分を見せたくなかったの。


勘ぐられないように。




姿だけでも、強く、強く。





約一時間後、私は亮太の住んでいるマンションの前に立っていた。



全身が、妙な違和感に襲われ、心臓が波打つ。




真実がつかめるかもしれないという


期待。



その真実への


恐怖。



その二つの入りじまった感情を持ちながら、




一歩一歩、部屋に近づく。





ピンポーン



エレベーターの音。



エレベーターに乗り込み、上へと上がっていく。



階が上がるにつれて、恐怖と不安も波打つ。



「そういえば、部屋にいるかも分かんないじゃん!」


独り言のように呟く私。


「来ていなかったらどうしよう..」



不安がどんどん募っていく。



でも、今更後悔しても遅い。





前を向こう。





______

___


「ふー。」


とうとう、部屋の前に来ちゃった。



深く深呼吸。


ん?深いから深呼吸なんだよね?


なんて、どうでもいいことを思っていないと、おかしくなっちゃいそう。




怖がるな。



ここまで来たんだもん。



真実を知る。


絶対に。





ピンポーン



気づけばインターホンを押していた。



それからが、とても長く感じた。



そして、インターホンから響く声。



『はい』



亮太だ。


「優奈、です。」



思わず敬語になってしまった。


ここで初めて、私は亮太とここまで距離ができていたことを実感した。




優奈と答えた瞬間、壁の向こうが一瞬声を失ったことが分かった。


それと同時に、ドアが開いた。



「亮太..」

「優奈...」




無言が続く中



「入って。」



そう亮太がいい、私は部屋へ入った。





「...で、どうして分かったの、ここ。」


「ちょっと、ね。」



亮太は勘ぐったのか、それ以上聞いてこなかった。



「で、話があるんだろ?」


亮太はまるで、私が何のためにここに来たのか知っているように、そう言った。



「うん。」



そこで、思わず声を失った。



理由なんかない。


なのに、怖いよ。




一回深呼吸をして、


「亮太がやったの..?」


そう聞いた。


これ以上言葉が出ない。


それを悟ったのか、亮太は私の目をじっと見て、


「うん。」





それだけ、言った。





その亮太の言葉を聞いて、反射的に体が動いた。



「何で!?私が何をしたって言うの!?」



気づけば、亮太の胸ぐらをつかんでいた。



亮太には、きっと簡単にわたしを振り払うことくらいで来た。



だけど、亮太はしなかった。


代わりに、

「ごめん。」




そう、静かに呟いた。