「雅、ありがとう」
そっと雅の手を握り締める。
「でも、大丈夫だから。」
そう言って、雅の手をそっと離す。
「ほんとに?」
「うん。」
しばらあく、沈黙が続いた後、
「明日は来る?」
「うん。」
その一言だけを残して、
雅を帰した。
。
その後、一通のメールが入っていることに気がついた。
見知らぬアドレス。誰だろう。
ボックスを開けるとすぐに分かった。
亮太だ。
一度会って、話がしたい。
できれば、早く。
亮太
そう書かれていた。
怒りと悲しみが込み上げてきた。
どうしようもない気持ち。
だから私は、そのメールを削除して、
二度と亮太とつながりを持つことをしない、と決めた。
。
後になって分かるんだ。
このメールが、最後の命綱だったってことに。
。
2か月後
理沙に赤ちゃんが生まれた。
「きゃー、かわいい~!」
「もう、天使みたい~!」
「ちょっと、雑に扱わないでよ。」
病院で赤ちゃんをつついている、理沙、雅、私。
急に理沙から、「生まれた!」のメールが届いて、びっくりしたよ。
一月の後半に、雅と二人で駆け付けたんだから。
。
「ったく、理沙は幸せでいいな~」
「え?まあ、雅とは違うから!」
「は、何それ!」
こんなたわいのない会話が続く。
そして、また私は成長した。
「もう、亮太とは大違い!幸せ者め!」
「亮太君と、一緒にすんなよ~!」
亮太の事を、過去として受け止めることができた。
だいぶ苦労したけど、ね。
。
まあ、あれから亮太からは一切のメールもなかったし、
ほんとに、縁が切れた感じ。
どこにいるのかも知らないし。
うん。
これでよかったんだと思う。
。
数日後、理沙が病院から家に戻る時、事件が起きた。
車の免許を持っている私が、理沙を家まで運ぶ手伝いをしていた。
「ごめんね、優奈。あいつ、仕事忙しいみたいで。」
あいつとは、理沙の旦那さん。
「いいよー!どうせ暇だったし。」
着々と病院の荷物を運ぶ。
「あ、優奈ごめん!ちょっと私先生と話があるから、有紗の面倒見ておいて!」
有紗は、理沙の赤ちゃん。
「おっけー、分かった。どのくらいかかる?」
「うーん、たぶん15分くらい。」
「はーい、んじゃあね」
「よろしくね!」
そう言って、理沙は有紗を私に預けた。
。
数分後、荷物も運び終わったし、なんか、喉乾いたな。
なんて思って、近くにある自動販売機に飲み物を買いに行った。
ちょっとくらいなら、目離しても大丈夫だよね。
なんて思って、有紗を置いていってしまった。
これが、闇に気付く始まりだった。
。
1分も立たないうちに、私は元の位置へ戻ってきた。
理沙の病室の前。
でも、明らかにさっきあったものがなかった。
有紗がいない。
。