SWEETPAIN~冷たい旦那サマは副社長~

俺と奈都也は対照的な二人として校内でも有名だった。


俺が月とするなら、奈都也は太陽のよう。


クールキャラの俺とは反対で奈都也は明るくて温厚で、常にヤツの周囲は笑いが絶えなかった。



麻友も奈都也に笑顔を見せる。俺に見せる笑顔よりも何倍も明るく、心の底から笑っているように見えた。



その麻友の笑顔に俺の胸をジリッと焦がす。



「焼くなよ…」


奈都也は横柄な俺の態度を見て、何を勘違いしたのか、嫉妬していると思ったらしい。



「俺は別に嫉妬なんてしてないっ!」


俺は向きに言い返した。


黙って訊き流し方が良かったと思ったが、後悔しても遅かった。







奈都也は誤解したまま、立ち去ってしまった。



俺の胸を焦がした思いは嫉妬の火種?



案外そうなのかしれないーーー・・・



良くないクセがまた出たようだ。俺はクールな性格だけど、惚れっぽい性格なんだ。



だから、俺は恋にのめり込み、人一倍傷つく。美華の時だってそうだ。



二度とあんな苦しい思いはしたくないと思ってるのに。


「ハァー」



俺は盛大な溜息を付いた。


俺の様子を見ていた麻友が心配そうに眉を曲げて問いかけた。




「お疲れですか?」



「そーだな…お前の相手も疲れたし、色々と疲れた」


「ゴメンなさい。私がもっと…しっかりしていれば・・・」



俺はまた、麻友に冷たい言葉を浴びせてしまった。本心ではないのに、お前に奈都也のように気の利いた言葉を掛けてやれない。



お前は俺を心配してくれているのに、俺はそんなお前をどうして傷つけるのだろうか?



自分が情けない。




もう恋なんてしないと思って、結婚の道を選んだのに。




俺はまた、お前に恋をしてしまった。



合併パーティを終えたのもつかの間。


多忙な蓮人さんのスケジュールに合わせて新居探し。


新会社のオフィス場所は横浜オアシス。最近、出来た新しい人工島。



挙式場所は既に父の経営するダイヤモンドホテル横浜と決まっている。



私達は、オフィスから程近くに建設される分譲の高層マンションのモデルルームを見学。



まずは受付を済ませ、簡単なアンケート用紙が渡される。



「お前が書けよ」


「で、でも、この場合は世帯主になる蓮人さんが書いた方が…」


「唯の見学で終わるかもしれないのに…俺が書いたら、後から色々と面倒だろっ?」


蓮人さんが耳許で囁きながら、私にアンケート用紙を押し付ける。


営業マンの人も苦笑い。


私は渋々、アンケート用紙を受け取り、添えられたボールペンで記入していった。



蓮人さんはパンフレットを見て、部屋の間取りを確かめる。



「間違った…」


「…そのボールペン…フリクションボール付だから、消せるぞ」



「えっ!?」



ボールペンで書いた字が消える?

私はキョトンとしていたら、蓮人さんが私の持っていたボールペンを奪い、軸後部の部分で私の間違った字を消してくれた。



「すごい…」



「はぁ?何、お前…フリクションボールペン知らねぇの?」



「知りませんでした…」



「…温度変化でインキが無色になるんだよ…」


「へぇー蓮人さんって物知りですね…」


「お前が知らなすぎるんだよ」


アンケート用紙を書き込み、営業マンはパンフレット片手にモデルルームを案内してくれた。



「わぁーシステムキッチンですよ…蓮人さん」



「見れば判る…」


私のテンパったテンションとは対照的にクールな蓮人さん。



私は対面式システムキッチンに立って、カウンターテーブルの前に立つ蓮人さんを見つめる。




「蓮人さん…座って下さい」



「んっ?」



蓮人さんは面倒臭そうにしながらも、カウンターテーブルのスツールに浅く腰を下ろした。



「…お前の料理している姿を監視出来ていいな…」


「見つめられながら、調理するのは少しテレ臭いですけど…」



蓮人さんは頬杖を付いて、シンクの前に立つ私を見つめる。



斜に構える彼の顔のアングルが凄くイケメンに見えて、心臓がドキドキした。
「キッチンはおしまい…次、行くぞ。麻友」



「はい」



殆ど、お前呼ばわりだけど…時々私の名前を呼んでくれる。

彼の気まぐれな性格にドキドキさせられてばかり。


明るい色のキッチンルームとは打って変わって、寝室はシックで薄暗かった。



黒っぽい柄のベットスプレットがかかった大きなダブルベット。
枕が二つラブラブに並んでいる。

ベットのそばに置かれた赤のランプシェードがお洒落。



結婚すれば、毎晩私達は一緒に寝るの…よね。


私寝相悪いけど、大丈夫かしら?



「…行くぞ」


蓮人さんは寝室に入ったばかりなのに、ベットに腰を下ろしてスプリングの具合も確かめず、さっさと出てしまった。



私は彼の背中を追い駆ける。








一通りの見学を終えて、営業マンのセールストークに耳を傾ける。



私達が見学したモデルルームは標準サイズの部屋で、階が高くなるにつれ、間取りも広くなって価格も跳ね上がるらしい。



蓮人さんは訊いてはいるけど興味がない様子。



高層階は若干、空きがあるものの、下の階はほぼ完売らしい。



営業マンはその場で返事を頂こうと蓮人さんを説得するけど。蓮人さんは頑に首を縦に振らなかった。



「妻と二人でゆっくりと検討致します」


『妻』その響きだけが耳に心地よく響いた。



「…住むなら、最上階の見晴しのいい部屋がいいけど」



私と蓮人さんは駅前のコーヒー専門のチェーン店で休憩。



蓮人さんは、営業マンから貰ったマンションのパンフをペラペラと捲りながら、コーヒーを啜った。




「子供が生まれたら…高層マンションよりも…庭付きの一戸建てに住んだ方がいいよな」



「・・・」



私と蓮人さんの子供か…


私としては、蓮人さんに似た男の子が一人欲しいなぁー


後は、蓮人さんに似た将来、美人になりそうな女の子…



二人の子供は願わくば、すべて蓮人さんに似て欲しい。


私のように要領の悪いお馬鹿さんは可哀相。