「う、嘘だろっ!?」
俺は上着のポケットからスマホを取り出し、麻友のスマホに電話を掛けた。
――――お客様がお掛けになった電話は…
抑揚のないアナウンスの声が鼓膜に響くだけ。何度、掛け直しても同じだった…
素直に自分のキモチを伝えられなかった俺が悪いのか!?
今朝は何ゴトもなかったように振舞っていたクセに、何だよ!?この酷い仕打ちは…
俺は麻友を恨めしく思った。
俺は苛立ちながら、缶ビールを煽り、麻友の支度した夕食を食べる。
俺の心の中には大きな空洞が出来ていた…
リビングボードに置かれた向日葵の花が俺に向かって大輪の花を向けている。
真っ直ぐに麻友はずっと俺のコトを見ていてくれた。
冷たくされても、
怒られても、
向日葵のような笑顔を向けて、俺の全てを受け止めてくれた。
なのに俺は…
失って初めて気づいた…
俺にとって麻友は必然な存在だと。
俺のポッカリと空いた心の穴は麻友の存在の大きさ。
俺は取り返しのつかないコトをしてしまったーーー・・・
実家に帰れば、すぐに足が付いてしまう。
私は友人の和香ちゃんが暮らすマンションを訊ねた。
時間は午後10時なのに、和香ちゃんは不在。
私はキャスターを置き、ドアに凭れかかりながら三角座りして和香ちゃんの帰りを待った。
今朝も、何食わぬ顔で蓮人さんを見送ったけど。もう限界だった。
私は蓮人さんに黙って、出ていく覚悟を決めていた。
気長に待ってやれと奈都也様は自身の本当のキモチを押し殺し、私にアドバイスしてくれたのに。
私は待つコトが出来なかった…
私は何も知らなかったと言え、最も残酷な遣り方で奈都也様を傷つけていた。
奈都也様を傷つけたのに、彼のアドバイスを受け入れられず、部屋を出て来るなんて…
奈都也様にも会わせる顔がない。
私の瞳は涙で濡れていた。
私は膝に顔を埋め、声を押し殺しながら泣いた。
「!?麻友?」
私は泣きながら顔を上げ、声の主を見つめる。
和香ちゃんが帰宅して、驚いた顔で私を見下ろしていた。
「部屋を出て来たって…喧嘩したの??」
「…ううん…」
私は首を横に振った。
「まぁーいいけど」
和香ちゃんは仕事で疲れた顔を見せず、笑顔で私を部屋に入れてくれた。
「ほら」
和香ちゃんは私に飲み物を差し出した。
グラスに入ったアイスコーヒー。
私はアイスコーヒーを飲み干す。
「…私は明日も仕事だから…朝はバタバタしているけど…いい?」
「和香ちゃんの都合もあるのに、勝手に押しかけてゴメンね…」
「今に始まったコトじゃないでしょ?」
「そーだね」
「…我慢の限界だったんだ…。片思いの結婚なんて…上手くいくはずないのよ…」
「それでもいいと思って…私は…」
「でも、欲が出て来た…」
「うん」
「…人間は欲の塊だから…」
「…パジャマ…どれにする?」
「大丈夫…キャスターの中にあるから…」
「本格的な家出だね…」
「うん」
和香ちゃんはラグの敷いたフローリングの上に布団を敷いてくれた。
「ありがとう…」
「…寝よっか…」
「うん」
明日も仕事の和香ちゃんは早々に就寝する。
私は和香ちゃんにもっと話を訊いて欲しかったけど、残りの話は心の奥にしまった。
和香ちゃんは友達思いだから、私がこのまま話を続けるとずっと訊いてくれる。
でも、親しい仲にも礼儀は必要。相手のコトも考えないと。
「和香ちゃん…おやすみ」
「お休み…麻友」
和香ちゃんは私の数少ない友人の一人。
蓮人さんと同じ位大切な人だった。
「…麻友…ありがとう…」
私は泊めてもらったお礼に朝食を作った。
「私…普段はトーストとコーヒーだけなの…」
「それはダメだよ…朝食こそが大事なのよ!!和香ちゃん」
「…そうね…朝が適当だから…便秘にもなるのかな?」
「きっと…そうよ」
和香ちゃんは私の焼いたスクランブルエッグを口に運ぶ。
「…今夜は飲み会だから…帰り遅くなるから…」
「そう…OLも色々と大変なんだ…」