「あ…そうか、村前さんって 茜のお母さんやったんか…」

「先生のお父さんって…あの、花道の師範の…?」

(粗相のないように、粗相のないように…)
気が動転して、頭にはそれしか浮かばない。

「せやせや、親父の使いや。これ、忘れんとお母さんに渡してや」

そう言って冊子と花を手渡した。
母からは“冊子を持って来るから”としか聞いていなかった。

「あっ…これは?」

「その花は親父から。夜遅くに伺ったお詫びって言うてたけど、ほんまかどうか」

「どういうこと?」

「ええ歳して若い子たぶらかしてるみたいやし」

「若い子?」

「お母さんにも、あんな金だけのエロ親父に騙されたらあきませんって言うときや」

「あ(そういうことか)…!あー!うちのかあさんはダメ ダメ ダメ!とうさん居てるもん!今もとうさんの所に会いに行ってるし!」

「ほな安心やな(笑)」

「あっ、先生お茶でも…」

「いいわ、まだ回らあかんねん」

「あ、じゃあ…」

「ほなな」

「あー、ありがとうございました」

担任は自分で扉を開けて出ていった。

(花もろた…彼岸花?あ、そろそろお彼岸か…そっかそっか)


部屋へ戻ると、絵里奈は歌詞カードを眺めながら まだハーブの香りを楽しんでいた。

「帰ったん?お茶冷めるで」