ジリ ジリ… ジリ ジリ ジリ…

「何の音?!」

「インターホンの音や。たぶんかあさんの客や」

茜が重い腰を上げて玄関に向かう。

「はーい!」

さっとサンダルを履き、外に居る客人に当たらないよう配慮して ゆっくり扉を開けた。

門燈を点け忘れたせいで、顔がよくわからないが、着物を着ているので 母が言っていた花道の先生の息子さんだということは 推測できた。

「こんばんわ 夜分遅くすいません」

「いえいえ、こちらこそわざわざ…」

そこまで言うと 息子さんを玄関に入ってもらった。
お客さんには失礼だが、背を向けサンダルを脱ぎ玄関マットの上に上がり、再びお客さんの方へ向き直した。

(粗相のないように、粗相のないように…あ!)

お客さんの顔を見て驚いた…。

「せんっ…せい?」

「茜?!」

顔を上げると、鶯色の着物を着こなした 茜の担任が立っていた。
手には冊子と、新聞紙にくるまれた紅い花の束を抱いている。