理科のノートをちゃんと忘れんと、机から取り出した。
丸めたそれをぎゅうっと握り締めて、廊下を歩く。
さっき通った角。
ついさっきのことやのに、全然ちゃう場所みたい。
だってな、知らないとこを通るみたいな気持ちやねんもん。
一気に色んなことが変わってしもたことに、ひっそりと。
だけど無視は出来ひんくらい、心をヒリヒリと痛めながら角を曲がった。
その瞬間、あたしは駆け出す。
走って、走って、階段を1段飛ばしで下りて、実験室に飛びこんだ。
ああもう。
息、しんどいなぁ。
……苦しいなぁ。
「もう、あんちゃんおそ、」
「って、え⁈ 杏奈⁈」
ちえたちにあっという間に囲まれる。
歪んだ顔はみんな心配そう。
「泣いてるじゃん」
ぬぐわれても、ぬぐわれても。
はらはら。
音もなく、あたしの幸せは零れ落ちていってしもた。