「杏奈帰るぞー」

「はいはーい」



いつも通り、迎えに来た達郎。

ちゃんと用意しておいた鞄を掴んで立ち上がる。



マフラーに大部分を覆われた顔でちらりちらちらっと達郎を覗き見る。



うーん、普通やんね?



「なに?」



いやぁその……と言い淀んで悩む。

どうするあたし。



「今朝のこと、やねんけど、さ」



悩んだ末にそう口にした瞬間、ピクリと反応される。

あ、やっぱこれ普通装ってただけなんか。






──今朝のこと。

それは教室に入ると、あたしの席に達郎が座って、ちえと俊介と話していた時の話。



まず、ちっちゃいことやけど、あたしの席に達郎が座ってたってことに朝からドキッてした。

もうな、ドキッてすんのは反射やからどうしようもないねんけどな!



どうでもいい人が座ってたってなんもないのに、特別な人がしてただけで嬉しくてこそばゆくなる。

せやからいつもより上擦ってもた声で「おはよう」って言った。

そしたら、








「ギャーーーー!」








叫ばれた。

しかも、絶叫やで?





そのまま達郎は走って出てって、あたしらの教室には戻って来んかった。