午後に入ると忙しさが倍増する。
ヒロミ以外は誰も在庫チェックに入ることはできず、私も店内の管理に走り回っていた。
「あ、遥香ちゃん。この前テーピングしたビデオ、特価ラックに積んでくれる?」
「わかりました。あの…」
「あのビデオはいいよ。今日持って帰りな」
「はい、ありがとうございます」
私はカートを押して裏口にまわった。
店内との温度差が体の奥にしみる。
袖に手を潜り込ませ、チェックが終わっている棚のビデオをカートに移動させた。
ひとシリーズごとに並べて整理して入れていく。
「あれ?私の……」
「もしかしてコレ探してる?」
紙袋に入れておいた、私がもらうはずだったビデオを片手に、ヒロミが笑って立っていた。
「それ……私のです」
「うん、そうだろうね。コレを欲しがる人はそんなにいないと思うし」
ちょっとバカにしたような言い方。
どうしてこの人は、こんなに人が苛つくようなことをするんだろう。
受け取った紙袋を持って、私が不機嫌に店内に戻ろうとすると
ヒロミは後ろから言った。
「俺もそのマンガ好きだよ。だからあのバイク買った。
あれ、すっごいカッコいいだろ。あれに乗って風になるのが最高なんだ」
ドクン…ドクン……
鼓動と一緒に、
じんわりと涙が浮かぶ。
振り返らなかったけど、私は軽くうなずいた。
うれしい気がしたから。
裕志と同じことを思ってくれている人がいるのが、理由は分からないけどうれしかった。