盛り上がる控え室を出て、私は一人裏口を出た。
駐車場の隅に停められた、艶に光が反射する500ccのバイク。
裕志と同じ、
メタルグリーンのSRだ。
一歩、また一歩。
私はそれに近付き、悴む指先でそのボディに触れた。
少しひんやりしている。
シートの弾力が心地いい。
いつか、
乗せてもらえるはずだった。
「遥香、これ全巻読んどけ」
渡された二十冊あまりのマンガ本。
「アニメ版ビデオもあるけど、こっちの方がいいか?」
裕志は暴走族のマンガに出てきたバイクを見て、あのメタルグリーンのSRを買った。
特別改造しているわけではない。
男の子にとって、あれは存在そのものが憧れなのだろう。
「ほら、この場面見てみ。かっこいいだろ。これ俺のと同じバイク。このキャラもイイ奴なんだよ~。
あのな、よく聞けよ。この主人公が特攻の……」
うれしそうに話す顔が、今でも忘れられない。
私にはわからない世界のマンガだけど、一緒に話を聞いてるだけでうれしかった。
バイクの話をしている時の裕志は、本当に愛おしかったから。
「ねぇ、私も乗せてくれるの?」
「あれの良さがわかるまでは乗せられねー。ビデオが擦り切れるまで、よーく見るんだぞ」
裕志は笑いながら、ビデオのケースで軽く私の頭をたたいた。