「行こうか」



軽くシートから飛び下りて、『裕海』が私の手を引く。



「さて、裕志君ごっこはこれで終わり。ごめんね、実はバイト仲間から裕志君と遥香ちゃんのこと聞いてたんだ。……どうしても、笑って欲しかったから」



申し訳なさそうな顔の『裕海』。

少し間を置き、
私は最高の笑顔を返す。



だってバイト仲間には、誰一人として裕志のことを知る人はいなかったから。

誰にも話していない。



知ってるのは、私と裕志。
あなただけなんだもの。








背景に消えていく海。

小刻みに震えている『裕海』の背中を、私は強く抱き締めた。