何も言わないまま時間が過ぎていく。

話したいことなんて今更なかった。

こうしてヒロミの隣にいるだけで……それだけでいいような気がしたから。




海を見続けるヒロミを見つめた。



「本当に『ヒロミ』って名前なの?」



何を期待しているのか。

普通なら変な会話。



でもヒロミは、素直に答える。



「『ヒロミ』はね、『裕志』の『海』って書くんだよ」




ザザーッ……




さっきから激しく騒ぐ鼓動の波が、一気に打ち寄せるようだった。



「そっか……」



裕海か……。



泣かない。
泣いちゃいけないんだ。



舞い上がる私の髪を、そっと押さえる大きな手の平。




「遥香、笑って」