二日後、稲穂さんのお葬式。
稲穂さんの友達は、皆涙を流している。
稲穂さんと一緒に、折乃さんをいじめていた女子達も、泣いていた。
「なんで…香は死んじゃったの…」
「香、また一緒にカラオケ行きたいよ…香ぃ…」
会場は、泣き声や嗚咽で溢れていた。
私は、稲穂さんと仲は良くなかったものの、やっぱり死んでしまったのは、ちょっと悲しかった。
教室の稲穂さんの席には、大量の花束が。
帰り道に、ふと稲穂さんが殺された現場だと思われる、公園に行った。
そこにも、大量の花束、手紙、お菓子などがあった。
あんな、いじめなんていう酷いことをする人でも、ちゃんと愛されていたんだなって、ちょっと失礼なことを思ってしまった。
でも、私はそんなこと、言える立場ではない。
私だって、いじめられている折乃さんに対して、何もしてあげられなかった。
いじめを止めることも、彼女を励ますこともできなかった。
そんな自分も、折乃さんをいじめていた女子達と同じようなものだ。
私は、制服のポケットにたまたま入っていた飴を、稲穂さんが殺された現場だと思われる公園にそっと置いた。
せめて…安らかに眠ってくださいね…。
そんな想いを込めて。
きっと、彼女を殺した犯人も、すぐに見つかるだろう。
そうすれば、彼女はきっと浮かばれる。
だから、その日まで我慢していてね。
しかし、彼女が浮かばれることはなかった。
家に着いた。
なんだか、体が重くて、動いていたくない。
「どうしたの、愛(アイ)…。
顔色がよくないようだけれど…」
お母さんが、玄関で突っ立っている私に、声をかけた。
「大丈夫だよ、お母さん…。
初めてのお葬式だったから、ちょっと疲れちゃったのかな…」
「そう、そうよね…いきなりクラスメイトが死んじゃったら、悲しいわよね…。
今日は、ゆっくり休みなさい」
そう、お母さんに言われた。
私は、そのまま着替えもせず、眠ることにした。
…
ここは…。
気がつくと、私は学校に来ていた。
疲れすぎちゃって、意識が飛んでしまったのかな?
私は、どうやら、今学校に着いたばかりのようだ。
そうだ、上靴に履き替えないと。
私は、自分の靴箱を探る。
しかし、靴箱はどこにも見当たらない。
どう…いう……?
すると、どこからか声がする。
「ウケる~!あいつ、上靴忘れてやんの!」
「だっさぁ~い!」
「便所のスリッパでも履いて来たら?お似合いだって!」
「アハハハハ!」
それは、折乃さんをいじめていた女子グループだった。
そこには、死んだはずの、稲穂さんもいた。
なんで…、だって……稲穂さんは………死んだはずなのに……。
これって、まさか…!
私は嫌な予感がした。
でも、頭が割れそうに痛くって、思い通りに体は動かない。
気がつけば、私は焼却炉の中を漁っていた。
あった…上靴…!
焼却炉に捨てられていただけで、燃えてはいない。
なんとか履けることはできそうだ。
私は、その上靴を履いた。
しかし、大変なことに気付いてしまった。
その上靴には、名前が書いてあったのだ。
1-3 折乃亜実
もしかして…!やっぱり…。
そこで、私は目を覚めた。
気が付けば、汗で体中がびしょびしょに濡れていた。
息苦しいし、目眩や吐き気もある。
私の見たその夢は、そんなに悪夢と呼ぶほど、恐ろしいものではなかったのに。
慣れない葬式になんて行ったから、きっと私は疲れているんだ。
そのときは、そう思い込んでいた。
いや、思い込むようにしていたのだ。
本当は、気付いていたくせに…。
次の日の朝、私は一番に学校に来た。
一番に学校に来ることで、謎の満足感を得られることができるからだ。
なんとなく嬉しいし、なんとなく達成感がある。
私は、職員室から1年3組、私のクラスの鍵を先生からもらい、教室までやってきて、鍵を開けた。
しかし、ドアは動かなかった。
あれ?もしかして、最初から鍵が開いていた?
なーんだ、私は一番ではなかったんだ。
そんな残念な気持ちになりながらも、私は再び鍵を開け、ドアを勢いよく開けた。