結局、長居することもなく病院を後にした4人。
「じゃあ・・・僕達は帰るけど、セイタくんはどっち方向?送っていくよ?」
「ありがとうございます。じゃあ、お願いします」
ぎゅっ。
セイタが手を繋いだのは、送りを申し出た元気ではなく、誠悟だった。
「・・・誠ちゃん、頼める?」
「あぁ・・・」
方向が同じの元気とともを見送って歩き出す誠悟。
その左手はしっかりと繋がれている。
まるで、逃がさないとでも言うかのように。
「・・・深井さん。あの日ね、掃除のない僕達はみなさんより先にスタジオを出たんですよ。でもその中に、頼人さんの姿はなかった・・・」
突然の言葉に、誠悟が視線を向ける。
セイタはじっとその目を見つめて、
「これがどういう事だか・・・わかりますか・・・?」
まるで勝ち誇るかのような笑みを見せた。
舞台稽古に使用しているスタジオは、スターライズの所有するものなので、鍵は事務所が管理している。
これまでは山井が解錠していたが、今日からは掃除同様レッスン生が順番に鍵当番だ。
稽古開始時刻は16時。
なので、15時45分に事務所から鍵を受け取り、徒歩3分のスタジオへと向かった高塚羽哉。
「おはようございます」
「えっ?」
ふいに後ろ、やや下方から声を掛けられ振り向くと、そこには水辺セイタが立っていた。
「あ、おはようございます!」
羽哉は自分より7つも年下の先輩に頭を下げた。
『本当はこんな事したくない』――それが羽哉の本音だった。
だって、他人に敬語を使うなんて正直ダサい、ロックじゃない。
いや、自分が認めるミュージシャンにだけは、尊敬の意を持って敬語で接したいと思っている――が、それ以外の人間にへこへこするのはカッコ悪い。
それでもこの世界、上下関係も大事だ。
『干される』という言葉もあるし、よっぽど人気実力共に兼ね備えないと、理想のスタイルは貫けそうにない。
『売れるまでの我慢だ』――羽哉は自分にそう言い聞かせた。
鍵を開け、電気をつける。
「俺、先にセッティングしときます」
セイタに告げて、道具部屋へと向かった。
「ん・・・?」
暗幕が床に広げられている――
しかも、下に長細い何かがあるようで、膨らみが確認できる。
まるでそれを隠すための暗幕のようだ――・・・。
「なんか・・・人型っぽいな」
そう思って、幕を捲ると――・・・
「うわああぁ!!」
思わず飛びのいて、尻餅をついてしまう
手を離した拍子に、再び幕がそれを覆い隠した。
(今のは一体――!?)
ゴクンと唾を飲み干して、もう一度、そーっと近付く・・・。
――そう、見間違いかもしれない。
よく出来た人形なのかも・・・。
もう一度、暗幕に手をかけた――・・・。
「スゲ・・・、本物みてぇ・・・」
それは人間の形をしていたが、体中の水分が蒸発したかのように干からびていた。
まるでミイラだ。
「あぁ、本物ですよ」
背後から声がかかった。
「わあっ!」
驚いて振り返ると、セイタだった。
彼は迷いもなく近付くと、暗幕を全て取り払った。
干からびた体が露わになる――
「うえっ!」
その不気味さに、羽哉は後ずさって距離を置く。
「この服装・・・女性ですね」
言いながら、セイタはスマホで写真を撮る。
何度も何度も色んな角度から。
「な・・・にやって・・・?」
「だって、警察が来たら、撮らせてくれないでしょ?」
平然と答える彼に、羽哉は寒気がした。
「ところで――このミイラ、誰だと思います?」
「え?」
髪の長さや全体的な華奢さ身長、そして何より服装から、女性のようだが――・・・
「佐藤栞さんです」
「はあっ!?」
羽哉は素っ頓狂な声を出した。
佐藤栞は演技科のAクラス、羽哉は歌科のCクラスだ。
特に話した事はないが、顔と名前は一致していた。
顔合わせの後の親睦会で偶然近くに座っていたからという、その程度の理由だが。