「考えなしなことしてごめんな」
和谷くんは、ちょっと眉を下げながら、教室を出て行った。
私は、その後ろ姿を見ながら、自分の口元に触れる。
ここに・・・和谷くんの唇が重なったのだ。
そう思うと、身体が火照った。
私は・・・キスが好きなのかもしれない。
邪念を振り払うように、頭を振る。
身体の熱も飛ばしてしまいたかった。
教室には、ただ夕日が差し込むだけだ。
☆End☆
「おい、七瀬、今日残るか?」
帰りのホームルームを終えると、声をかけられた。
同じ合唱コンクール実行委員の神谷 光樹だ。
「み・・・たにくんは?」
「お前が残るなら」
「あ・・・うん、明日、実行委員会だから・・・」
実行委員として、書類をまとめたりしないといけない。
「分かった」
神谷くんは、くいっとあごを下げてうなずいた。
みんなが部活に行ったり、帰路についたりして、教室から姿を消していく。
わずかに、こちらを気にする和谷くんには気づかないふりだ。
・・・それが誠意だと思って。
誰もいなくなった教室で、私たちはプリントを片付けていく。
無言で。
神谷くんは、わりと格好いい。
切れ長の目が、すごくクールだ。
サッカー部ではキャプテンとして頑張っているし、成績も悪くない。
女子の間では、けっこう人気がある。
でも、ちょっと苦手だ。
怒ると大声出すし、怖いんだもん。
「七瀬、終わったぞ」
「あ、ありがと」
「じゃ、帰るから」
「え・・・」
ほら。
やっぱり薄情なヤツだ。
「あ゛?何か文句ある?」
「あ、い、いいえ・・・」
はぁ・・・と、神谷くんがため息をつく。
「七瀬っていつもそうなのな?」
「え・・・」
「遠慮してるっつーか・・・あんまり、気ぃ強くねえだろ」
「そりゃまぁ・・・神谷くんは、サッカー部の練習休んでいてくれてるわけだし・・・」
帰りたい気持ちも分かるっていうか・・・と言ってみる。
「巧にもそうだったわけ?」
「え・・・」
「告白したって巧から聞いたけど」
神谷くんの目がきらっと光る。
「優しくして、甘い顔見せて、誘惑したわけ?」