「百合香さん、昼食の準備ができました。


階段を上がって右の部屋にお越しくださいね。」


紗夏さんの声が聞こえる。


「紗夏さん、申し訳ないけれども一緒にご飯はいただけませんよ。」


「百合香さんのことについて雅さんがお話をしたいと仰ってます。」


「話・・・?」


ふすま越しに会話を交わす。


「はい。


お話だけでもしませんか?」


「話だけなら構わないけれど・・・。」


私はしぶしぶ了承し、ふすまを開けた。


髪の毛を後ろで一本に縛り、巫女服を着ている紗夏さんが正座をしている。


小さく頭を下げ、私を案内してくれる。


階段を上り、右手にある部屋のふすまを開けると糸結界を破った男が静かに佇んでた。


男は私たちの存在に気付くと、くるりと体の向きを変え、深々と頭を下げた。


「こんにちは。


1夜ぶりですね。


・・・ああ、僕は雅です。」



程よく低い声で自己紹介をされる。


私も釣られて正座し、頭を下げる。


「・・・須崎百合香です。


制服と浴衣、ありがとうございます。」



「いや、気にしないでね。


僕は、君と話をしたかっただけだよ。


・・・おっと、煮えてきたようだ。


さ、一緒に食べようか。」


私の前に食器を出される。


ポン酢をなみなみと注がれ、ポン酢入りの食器に豆腐などを入れられた。


「食べようか。


いただきます。」


雅さんは胸の前で手を合わせ、箸に手を付ける。


紗夏さんもいただきます、と言い、胸の前で手を合わせて箸に手を付ける。


私もいただきます、と言い胸の前で手を合わせ、箸に手を付ける。


「ん、それじゃ、話をしてもいいかい?」


「ええ、どうぞ。」


「紗夏ちゃんに言伝を頼んだのは誰だい?」


「言えないわね。


秘匿情報よ。」


そこまで言い終わると、部屋に設置された鐘時計が12時を指す。


「マズイ・・・


人形を渡さなければ・・・」


私はあわてて部屋を飛び出そうとする。


「人形の場所は分かっているのかい・・・?


最も、僕は君に場所を教えるつもりはない。」


鋭い目で睨まれる。


「・・・依頼者は夏目沙捺。


さんずいに少ないという字に手偏に奈良の奈で沙捺。


名前こそ一緒だったけれども雰囲気は全く違ったわ。」


「・・・夏目、沙捺か。」


「ええ、そう名乗ってたわ。


偽名かしら。」


「さあ、分からないな。


・・・紗夏ちゃん?」


私も紗夏さんを見る。


小刻みに震え、何かにおびえているような様子だった。


「沙・・・捺・・・」


しきりに依頼主の名前を連呼する。


「どうしたの・・・?」


「私の・・・双子の・・・妹・・・!」


「妹さん・・・!?」


「・・・はい。


10年前・・・、生き別れになったまま・・・」


「・・・厄介なことになるぞ・・・。」


何やら思いつめた様子で雅さんは俯く。


「たぶん、彼女は呪人形を回収するためにこの神社に来るだろう・・・。


今だから君に話す。


呪人形は本堂の奥に隠してある。


鍵は僕が管理しているけれど。」


「・・・でもさ、なんで位置がわかるわけ?」


「おそらく、予想に過ぎないけどあの人形を作ったか、もしくは深く関わりがある人なんじゃないかな。


彼女は。


もし、そうだとしたら気配が分かるんだ。


これは人間の性、だね。」


「人間の・・・性、ね。」