「モデルをやってほしいの」
「…モデル?」
「趣味で写真撮ってて。コンクールに出品する為にあなたにモデルを頼みたいの」
「…それって新手のナンパ」
「じゃなくて、ただのモデル。わたし別に、男の人には困ってないから」
 
 普通にそんなことを言わなくても。何故かこの子――水原詩依、がいうと大層な発言も嫌味ではなく自然に聞こえてしまう。しかもなんか、何故か楽しそうだし。

 答えに困っていると、店の前に車が止まった。

「良かったら…ていうかできれば、メールください」

 お願いします、とぺこりと頭を下げて、水原詩依は俺の前を通り過ぎる。後姿を見送っていると、ふいにこちらをふり返った水原詩依と目があった。

「期待してる」

 大きな声ではなく、こちらにちょうど届くくらいの音量の声で、綺麗に笑いながらそんなことを言う。

 それからくるりと向きを変えて、敷地を出て行ってしまった。

 なんとなく水原詩依がいた場所を見つめつつ、車から降りてきた客にとりあえずいらっしゃいませを言って、紙をジーンズのポケットにしまった。

 バイトが終わったらメールしてみようとすでに心に決めていた。