「…彼氏とか、いないの?」

 もしかして彼氏と喧嘩したとかそういう内容なら、虚しくなる前にはやく知っておきたい。

「…いないよ」

 内心ほっとした。

「何があったわけ」
「…何も」

 …言いたくないってことか。

「…奏は彼女いないの?」
「いない」
「そっか…」

 残念なのかなんなのか判別のつかない言い方だった。

「――ごめんね」

 視線を落として、詩依が呟く。

「…俺は、いいけど」
「よくないよ…」

 何が良くないんだ。
 詩依の青い瞳には、また涙が浮かんでいた。

「あー、大丈夫かよ」

 どうしていいかわからずに、手を伸ばして髪を撫でた。

 顔の横まで滑らせたところで、詩依が手を握った。

「…優しくされると余計に泣けてくるの」
「…うん」
「…わたし、本当はひとりで生きられるようになりたいんだ」
「………」
「――でも、無理なの」
「…うん」

 手が震えていた。

「…少し、寝たら?」

 詩依の手に力が入る。

「別になんもしないし、――でもそばにいるから」

 詩依は、小さく頷いた。